回り道

朝、テレビをつけていたら事態は少し違っていたはずだ。
世の中は、すでに騒がしかったのだ。
私は、のんきに構えていた。
東京発の新幹線チケットをネットで予約したのが、家を出る前の7時半頃。
「のぞみ」で2人用シートをとれたので、ちょっとラッキーくらいに思っていた。
午後2時に、大阪市内の喫茶店に到着できればいい。
9時半の「のぞみ」を予約したから、余裕のよっちゃん、昼ご飯を食べる時間も十分だ。

・・・・・・東京駅の新幹線乗り場に着いたら、人で溢れかえっていた。
東海道新幹線、浜松ー名古屋 が不通。
保守車両が脱線! 

つまりは、私が家でチケットを取ったあの時も、
運転の見込みはなかったってこと。
知らなかったなあ、ではあとの祭りである。

新幹線乗り場の周りは、困り顔の人たちがわんさかいて、
この人たちがこれからどんな動きをするのかを考えると、
とにかく「逃げろ」という気持ちになった。
早く動くしかない。

羽田空港へ行こう!
荷物を抱えて品川へ、そこから京急で空港へ向かうことにした。
ぐずぐずしていたら、伊丹行きはなくなっちゃうよね、と車内でネット検索。
でも、すでに行動が遅すぎて、伊丹行きはどれも満席だし、関空行きも満席だった。
唯一、伊丹行きで2席をゲットできて、喜んだのもつかの間、
よくよく見たら「株主優待チケット」だった・・・・・
やばい、でも2席は2席だ。とにかくゲットしたのだから、窓口で事情を話して普通運賃に変更してもらえないかしらん、
とそのまま羽田へ向かう。

結果から言うと、だめだった。
窓口で事情を話し、「いったん株主優待チケットを手放してもらいますね。(機械操作上で)そのまま普通席に切り替えられたらそうしますね」
と言われたのだけれど、手放したらそのまま、どこかの誰かの席になった。
そりゃそうだ。キャンセル待ちが何十人(いや、100人単位だったか)規模でいたから、仕方ない。

伊丹行きは、午後9時半までの便はすべて満席という。
サトル君とふたりで、さあ、どうする? と作戦会議。
・・・というか、会議なんてのんびりした状況でなく、殺気立っていた。
ちっ、ちっ、ちっ、と時計の針が耳元でなっている感じ。

とその時、「高松へ飛ぼう」とサトル。
電光掲示板を見ると、高松行きの飛行機が「遅れ」と出ている。
20分以上の遅れらしく、今受付をすれば、私たちは高松行きに乗れそうだ。
うーん、瀬戸大橋か、と思う。
とにかく、乗っちゃおう、と手続きをして飛行機に搭乗。

何年も前のことを思い出した。
高松空港に降りる予定が、霧で視界不良のため、伊丹空港に降ります、ということがあった。
あの時は、伊丹空港でレンタカーを借りて、夜やっと香川県に到着したのだった。
あの時みたいに、伊丹空港に降りることになったらすごいのに、なんて考えたけれど、
まさかの事態は起こらず、高松空港へ着陸。

そこからは、
高松空港~高松駅 リムジンバス
高松駅~岡山駅 電車 (瀬戸大橋を渡る! 絶景だぜ)
岡山駅~新大阪駅(新幹線)
・・・・というルート。
新大阪から、在来線を乗り継いで、
取材先の喫茶店に到着したのは、午後5時20分くらい。
店主が店の前に立って、私たちの到着を待っていてくれた。
その姿を見て、泣きそうになった。
週に一度の店の定休日に、わざわざインタビューの時間を取ってくれたのだ。
途中で電話を入れて、遅くなることを告げた時、
「いいよー、大丈夫、ノープロブレムだよ」と言ってくださったマスター。
本当に嬉しかった。心の底から、ありがたかった。
冷房の効いた店内で、マスターがいれてくれたアイスティーを飲み干した時、
ああ、人に会うというのは特別なことなんだなあ、と
改めて実感したのだった。
取材をお願いして、日本各地に行くのだけれど、
その人と過ごせるその時間、というのは、
人生のなかで後にも先にも、その時だけだ。
わざわざ私のために、大切な時間を空けておいてくれるのだ。
私は、そのことをちゃんと意識していなくちゃいけない、と思った。

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瀬戸大橋を電車で通過。初めての体験。
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こちらのタコさん。今回の旅の前に、岡山の友達が送ってくれたもの。
箱に詰める時には、まだ生きていたらしい。
ネギやニラと一緒に焼きそばに入れたり、刺身で食べたり、タコ飯にしたり、と堪能させてもらった。
まさか、その後すぐにこのタコさんのいた海を通ることになろうとは・・・・・


























by naomiabe2020 | 2024-07-26 15:24 | ライターの仕事 | Comments(0)

フリーライター阿部直美のブログ。カメラマンの夫とともに、「お弁当」を追いかけて日本全国を旅しています。日々のちょっとしたことを綴るブログです。


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