絶景って

喫茶店の老店主のことば。

旅から帰ってきてすぐ、まだ旅の疲れが残ってるうちに
「ああ、いい旅だった」なんていうのは、ちょっと違うと思うんです。
1か月、いや3年とか過ぎてね、
普段の雑務の中にいる時に、
「ああ、そういえば、いい旅だったな」ってふと思い出すようなのが、
いい旅じゃないかなって思うんです。
名所を見て回ったとかじゃなくてね、
あの時、シジミチョウ(アゲハ蝶じゃないの)がひらひらっと目の前を飛んでいくのを見て、
なんだかぐっときちゃったなあとか、
首筋にすーっと涼しい風が撫でていって、
爽やかだったなあ、とか、そういうホントに些細なことこそ記憶に残っててね。
それこそが、旅なんじゃないかなあ。



80歳を過ぎた店主が淹れてくれた珈琲は、
ほんのりスモーキーで、控えめだけれど苦みも甘みもある。
珈琲専門店なので、さぞやこだわりの強い店主かと思いきや、
こだわりの方向が、想像していた方向とは違った。
そして、私はそっち側の人が大好きだ。

その人は、50年以上珈琲にこだわって生きてきて、
「コーヒーなんてあくまでも脇役だよ」と言う。
人生をささげた人だから、言えるんだと思う。



最近、サトル君がとある冊子でインタビューを受けたのだけれど、
そのテーマが「絶景」だった。
あなたにとっての絶景とは?
今、流行りみたいだ。
SNS映えする風景を、皆さん撮りたいんだろうな。

困っちゃったよね、絶景だって、
と夕飯の時にその話題になった。
「俺にとっての絶景は、弁当です、って言いたいよなあ」

届いた冊子を見たら、本当にそう書いてあったから笑った。
鹿児島の指宿温泉の砂蒸し風呂で、
砂の中から顔だけ出してる人たちの風景も、俺にとっての絶景だし、
そこで働く人がお昼に食べてたカップラーメンに、
家で採れたオクラを刻んだのをのせたもの、それも絶景です、と。

サトル君らしいなあ、と思った。
そして、私もそっち派だ。
あのマスターも、そっち派。






by naomiabe2020 | 2024-05-19 16:49 | 日々のこと | Comments(0)

フリーライター阿部直美のブログ。カメラマンの夫とともに、「お弁当」を追いかけて日本全国を旅しています。日々のちょっとしたことを綴るブログです。


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