からだの声

フラメンコの舞踏家さんが、
スタジオに入ってまず最初にやっていたのが、体の声を聴く、ということだった。
いきなり、屈伸運動みたいなウォーミングアップはしない。
椅子に腰かけ、目を閉じて
自分の手のひらを、腰や脇腹に当てる。
静かな時間だ。
鎖骨のあたり、喉、耳の後ろ側。
ひとつひとつ、時間をかけて手を当てる。
おーい、と声をかけているみたい。
どうですかー?
いけそうですかー?
若かった頃は、体に命令してきたけれど、
年を重ねた今は、命令してはフラメンコは踊れないっていうことに気づいた、
とおっしゃっていた。

その言葉が、あれからずっと私の中にある。

ああ、私はどうだろう。
身体の声を聴いている?
いやいや、拝み倒してきた気がする。
お願いします、なんとか今を切り抜けられますように、
と、年中お願いモードだ。


最近の私の体は、得体がしれない。
そう、更年期というやつで、これが全く不思議だ。
冬の間は落ち着いていたのに、
春が近づいてきて、むくむくと体の中からうごめくものがある。
夜、眠っていて、明け方のまだ暗いうちに目が覚める。
そうすると、まずヤツがくる。
胸のあたりいっぱいに、イガイガ、チクチク、キリキリと。
いや、これを言葉にできないのだ。
いつも、これってなんだろう? とヤツの再来のたびに考えるのだけど、
言葉が見つからない。くやしい。
強いて言うなら、初恋の時の胸の疼き?
ちくん、とくるあれだ。
甘酸っぱいあれは、青春そのもの。
でも更年期のそれは、何十倍の勢いで押し寄せてくるのだよ。
だから、うへーっとむせそうになる。

ヤツは、あっさりと去っていき、
つぎに来るのが、発熱だ。
自家発熱。ホットフラッシュですね。
これもまた、変な気持ちになる。
これって、言葉にするとなんだ? と毎回考えるのによくわからない。
くやしい。
じわーっとあつくなって、布団をはぐ。
私の場合、そこまでの発汗力がないらしく、
勢いは弱い。
あついあつい、と布団をはいだ後、またすぐに寒くなって布団を戻し、
ぬくぬくしながら、また眠る。

また、その後で、目が覚めたら、ヤツがくる。
発熱もセットでくる。
あちーっと布団をはいでから、さむい、とまたもどす。

ということを、繰り返す。
すごく嫌ってほどでもなく、
こういうことが自分の体で起こることが不思議でならない。

話は変わって、鹿児島の牧場へ行ってきた。
競馬や乗馬を引退した馬たちが、余生を過ごす牧場だ。

馬たちは、広い広い高原で、好きなように駆け回って過ごせる。
紐に繋がれていない馬というものを、しかも集団でいるのを初めて見た。

彼らは、人懐っこい。
ぬーっと近づいてきて、自分の顔をくっつけてくる。
最初は、ひいーっと身をすくめて、怖くもあったのだけれど、
慣れてくると、可愛くてたまらなくなってしまった。

そんな彼らが、ぼーっとしている姿が印象的だった。
おじいちゃん、おばあちゃんの馬たちだ。
目を半分閉じて、本当にぼーっとしているのだ。
人間とまるっきり同じ。
仲良しの馬とじゃれあって、一緒になってぼーっとしている。
時々、どたっとひっくり返って、無防備な姿で寝っ転がっていた。
その姿が、なんとも平和そのものだった。
老い、は人間にも馬にも、すべての生き物にやってくるわけで、
それこそ自然なんだよなあ、なんて思わせてくれた。

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by naomiabe2020 | 2024-03-25 16:10 | 日々のこと | Comments(0)

フリーライター阿部直美のブログ。カメラマンの夫とともに、「お弁当」を追いかけて日本全国を旅しています。日々のちょっとしたことを綴るブログです。


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