別府の温泉

先週の大寒波の時、大分県は別府に滞在していた。
九州も寒かった。雪がちらついた。
そんな時こそ、温泉だ。

普段、温泉宿に行った時など、
風呂に誰もいなかったりすると、ラッキー!と思う。
ひとりで、のんびりくつろげる、とほくそ笑む。
でも今回は、違った。
「不老泉」という市営の公衆浴場へ。
仕事の前にも、後にも、ひとっ風呂というわけで、250円を握りしめて行った。
午後6時過ぎ。
ちょうど一番混む時間で、脱衣所も賑わっていた。
ぱぱっと服を脱いで、いざ風呂場へ。
おお、と一瞬たじろいた。
浴槽の周りを取り囲むようにして、座り込む人たち。
「あつ湯」の周りには私の入り込める隙はなく、
となりの「ぬる湯」に、新参者の私でも陣取れる場所を見つけた。
前の日にも来たので、流儀は知っている。
風呂の湯を桶にとって、ざぶーんと体にかける。
また湯をとって、ざぶーん。

どうやら、別府の公衆浴場には、石鹸やシャンプーは置いてない。
脇に並ぶ水道の蛇口からは、水しか出なかった。
(湯の出るシャワーはひとつだけあったけれど、みんな使っていなかった)
みんな、湯舟の周りに座って、髪を洗い体を洗い、じゃぶじゃぶと湯を流す。

ぬる湯につかりながら、ぐるっと取り囲まれた情景を眺めて、
なんだか面白いなあ、と思った。
活気があった。
泡だらけになる人、
マイ洗面器で湯をくみ、まずは足だけに10杯くらいざぶん、ざぶん、と掛け流す豪快な人、
小学生の娘さんは、お母さんに髪を洗ってもらっていた。
サルの親子みたいに並んで、顔に水が流れるのが嫌な娘は目をぎゅっと閉じたうえに、
両手で顔を覆っていた。
そこにお母さんが、洗面器でお湯をくんで、何杯もかけていく。

さすが別府で、湯の流し方がみなさん豪快だ。
あの人数で風呂の湯をくんでも、減らないのがすごい。

挨拶して、お喋りも始まる。

この距離感。
みんなが湯船を取り囲むように座っているから、
なんともいえない、一体感があるのだ。

ホテルの大浴場にも入った。
実はサトルくんが入ったホテルの大浴場(男湯)で、
喧嘩があったというのだ。
ひとりのおじさんが、立ちながらシャワーを使っていて、
近くの人に湯がかかったらしい。
「お湯がかかった」と怒る人、
「たまたま、じゃないか」と怒鳴り返す人。
風呂場で怒声が響くなんて、最悪だね、と話したのだけれど、
本当にそうだ。

それに比べたら、「不老泉」での光景はいいな。
浴槽のお湯を、みんなで使う。
石鹸やシャンプーの泡が浴槽に飛び散らないよう、
みんな、絶妙な場所取りで座っている。
「今日の湯はぬるいね」
「○○の湯はもっとぬるかったよ」と、知らない者同士がいつの間にか仲良くしゃべってる。

活気がある風呂、というのを始めて経験した気がする。
そこに混ぜてもらって、楽しかった。

別府から帰ってきて、
家の机に向かった時、言葉を失った。

窓の外が、すっからかん。
消えていた。
私の大好きな、大きな柿の木。

目の前の窓のすぐ向こうに、柿の枝が張り出していて、
野鳥も蝶々も、セミもスズメバチも、時には長いしっぽの茶色いネズミまでやってきていた。
柿の実をみんなで分け合っているのを、ぼーっと眺めるのが楽しみだった。
というか、仕事をせずに、
いつでも外を眺めていた。

それが、消えた!
向かいの家の木だから、文句は言えない立場だけれど。
悲しいな。

















by naomiabe2020 | 2024-01-31 17:12 | ライターの仕事 | Comments(0)

フリーライター阿部直美のブログ。カメラマンの夫とともに、「お弁当」を追いかけて日本全国を旅しています。日々のちょっとしたことを綴るブログです。


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