

五島の福江島へ。
プロペラ機に乗ったのも、久しぶりだった。
重量バランスの関係で、席は勝手に移動しないように、というアナウンスがあって、
もしお相撲さんが数人乗る場合なんかは、
飛ぶ前に、あなたはこっち、あなたはあっち、と席替えをしたりするんだろうか、
なんてことを考える。

サトルさんが、はしゃいで顔を出しているけれど、
まるで忍者屋敷みたいなここは、富江町にある「さんごさん」。
古民家を買ってリノベーションしたオーナー夫婦が、
私設図書館として開放している場所だ。
面白いのは、いろんな分野の人たちに声をかけて、
「あなたにとっての人生の3冊」を寄贈してもらったところ。
いらない本をください、ではなくて、
とっておきの3冊をください、というアイデアがいいな、と思う。
佐藤さとる「だれも知らない小さな国」が2冊、目に飛び込んできた。
私も好きだった。
小学生の低学年の時、ピアノのレッスンの待ち時間にこの本を読んだのを覚えている。
不思議なもんで、あの日座っていたソファの質感も部屋の匂いも含めて、
完璧なくらいに記憶しているのだ。
ピアノの先生は、幼稚園の先生でもあって
レッスンの日(土曜日の午後だった気がする)に、「早く幼稚園から帰ってこないかなあ」
と、毎度先生を待っていた。
幼稚園から、なかなか帰ってこなかった。
しかも、先生はお寺の娘さんだったので、先生を待つ間遊ぶのはお寺の敷地内だ。
鯉の泳ぐ池の周りで、かくれんぼをしたり、
玉石がじゃりじゃりしている敷地で、缶蹴りもした気がする。
ちなみに、別の曜日には、このお寺ではそろばん塾もやっていて、
そっちにも通っていた。
寺子屋育ち、とは私のこと。
ピアノの先生が帰るまで、しびれを切らして待ち続ける間に、
「だれも知らない小さな国」を読んだのだった。
夢中で読んだ。
ピアノのレッスンは、いつも「来た順」だったので、
やっと先生が到着してレッスンが始まると、
今度は、最初の子からピアノを弾くのをじーっと待って聞き続けることになる。
何人も何人もいるから、ただ待つ。
のんびりした時代だったよなあ、と思う。
・・・・・・佐藤さとるで、そんなことを思い出していたら、
目の前のサトルが、本棚から顔を出して手を振っていた。
ここに置いてある本を開くと、
選者のコメントが書いて貼ってある。
どうしてその本を選んだのか、どんな思い出があるのか。
誰かの本を、そうやって引き継げるのってステキだ。

こちらのアコウの大木は、大浜という地区の小さな漁港にある。
一目見て、わお、ただものじゃないね、と思う木だ。
話を聞けば、持ち主だった方が家を含めて管理できなくなり、
更地にする計画で、手始めにこの木を切り始めていた。
実際に、枝のいくつかはチェーンソーで切られた跡がある。
そこに通りかかった、ニコラスさんという人が、
この木を切ってしまうなんて勿体ない、と解体業者と大家さんに掛け合って、
伐採を免れた。
家も土地もその後ニコラスさん夫婦が購入して、
今は素敵なゲストハウスになっている。
ニコラスさんには会えなかったけれど、その行動力に敬服してしまう。
3階のテラス席にて、旅の終わりの遅い夕飯。
魚屋のトミコさん(かわいいおばあちゃま)の、ヒラサ(ヒラマサ)とアジの刺身。
今回、旅でずっとお世話になったデザイナーのアリカワさんにならい、
「千円でお願いします」と。
朝6時に、自ら市場に行って仕入れてくるという、
新鮮なアジが、ぴょん、と跳ねた格好のままで氷の中にあった。
おばあちゃん友達ふたりが、小さな店の中に腰かけてお喋りしていた。
なんとも、和やかな風景。
トミコさんのお刺身は、新鮮そのものでホントに美味しかった。
アリカワさん、ありがとう。
出会ったみなさん、ありがとう。
これから、原稿を書きます。
ということで、こちらは番外編でした。