こんなところで!

今月はじめ、富山県の宇奈月温泉に行った。
最近放送の「サラメシ」が富山特集で、
うちのサトルさんは、シロエビ漁に同行していたのだけれど、
トロッコ列車の整備点検をしている人のおべんとうも出てきた。
そのトロッコ列車の発着駅がある場所だ。
喫茶店の取材でその近くを訪れたので、
夕方宿に行く前に、ひとっ風呂浴びちゃおう、ということで温泉に立ち寄ったのだった。

風呂から出て、少し歩いていると小さな本屋さんを見つけた。
最近、個人書店は珍しいので、なるべく入ることにしている。
週刊文春でも買おうかな、と。
入口の棚には、登山関係の雑誌や本が並んでいて、
ああ、ここは黒部渓谷の入り口だもんなあ、と思いながら店内へ。
小さなお店なので本の数は少ないけれど、
店主がこだわった本を置いているんだなあ、というのが感じられた。

そうしたら、あったのだ。
「里の時間」(岩波新書)!!
こんなにびっくりしたことはない。
だって、あの赤い表紙がこちらを向いて置いてあったのだもの。
しかも、岩波新書がずらっと並ぶ棚じゃなくて(そもそも、その棚はなかった)
一般書籍がさしてある棚に一冊だけ、
面置きっていうの? 表紙がこっちを向いた状態で置いてあった。
こんなことってあるの? と思った。

思わず書店の人に、
「著者なんです!」と鼻息荒く興奮状態で声をかけ、
「嬉しいです」と写真を撮らせてもらった。
(風呂上りのすっぴん、へん顔なので、ここには残念ながらのせられませぬ)
そうしたら、「著者に会うなんてこと、滅多にないから私も写真撮らせて」
と奥さんが私の写真を撮ってくれた。ははは。
(きっと、ご主人のほうがあの本を棚に置いてくれたのだろう)

誰か、ステキな人に買ってもらえますように、
と強烈な念を送って、店をあとにした。

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この本には、驚かされる。
あんまり売れていないのだけど、とにかく面白い出会いを演出してくれるのよ。

実は過去にも。
「暮しの手帖」で「わたしの仕事」という連載を2019年から担当している。
その3回目に、練馬区の「ぽらん書房」という古書店の店主・石田さんに登場いただいた。
その後店を閉めてしまったので、残念ながら今店はないのです。
あの時は、私から取材依頼をした。
まずは電話をかけて、その後で過去の記事をファックスで送ったのだったか・・・・。
「わたしの仕事」の取材では、まずは編集者さんと私のふたりで行きインタビューを受けていただく。
別の日に、丸一日密着ということで、キッチンさんが写真撮影。
私と編集者さんも、写り込まないようにかくれんぼしながら現場で一日を過ごす、という流れだ。

ぽらん書房さんでインタビューの日、
初めまして、の挨拶をすると、
石田さんが「阿部さん、本読みましたよ」と。
えー? なんでわかったんですか? と本気で驚いた。
そもそも、ライターの阿部直美を知っている人なんてほとんどいないし、
たまに、「おべんとうの時間」好きなんですよ、と声をかけてくれる人がいて、
すごく照れ臭くもあり、嬉しい。
でも、この時石田さんが差し出したのは、「里の時間」だったから、びっくりした。

古書店のご主人なんだから、そんなに驚くことはないんじゃないの、って?
いやいや、石田さんがこの本と出合った経緯を聞いて、
さらにぶっとんだ。

こういうことだ。
石田さんの書店には、ある男性が時々古本を持ってやってくる。
その日も、何冊も抱えてやってきて、査定して欲しいということだった。
石田さんが思うに、その彼は家庭から古本が出される「資源ごみの日」に近所を回って、
めぼしい本を回収して持って来ているんじゃないかな、ということだった。
数日前に持ってきた本のなかに、「里の時間」があって、
著者の名前を見たら、取材のお願いで連絡をくれた阿部さんと同じだ、ってことで気づいたそうだ。
(つまりは、本棚にさしてあったら、気づかなかったということ)
嬉しかった。

さらに驚いたのが、
その日、店でインタビューをさせてもらって、さあそろそろ帰ろうか、という頃。
ある男性がレジに立った時に、石田さんが私に目くばせをしてみせた。
「彼だよ」と。
私の本を資源ごみから(おそらく)救い出して、本屋に並ばせてくれた人!
後ろ姿に、すでに見覚えがあった。
ちらりと顔を見て、飛び上がりそうになった。

だって、私は彼のことをよく見かけていたのだ。
近所の本屋さんの雑誌コーナーで、紙面に顔をすりつけそうなくらい近づけて熱心に読んでいた。
本好きなんだろうな、と思っていた。
ちょっと変わった雰囲気の人だったので、遠巻きに見るかんじで。

その人だった。
私の本を、ぽらん書房さんに届けてくれて、ありがとう。
こんなことって、あるのだ。

そんな奇跡みたいなことも、ありました。
「里の時間」
みなさま、書店に行きましたら、
ぜひ「岩波新書」の棚を探してみてくださいな。



























by naomiabe2020 | 2023-10-30 15:57 | ライターの仕事 | Comments(0)

フリーライター阿部直美のブログ。カメラマンの夫とともに、「お弁当」を追いかけて日本全国を旅しています。日々のちょっとしたことを綴るブログです。


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