新幹線の新事情

金沢行きの新幹線に乗った。
座席は、進行方向の前から2列目(2シート席)の窓側。
席についてほっとしたら、新幹線はすーっと音もなく東京駅を出発。
と、そこで、前の席から携帯の着信音(すごい大音量)が・・・。
「はい、ああ、私は今日は午後から出社ってことになってるんですよねー」
そのまま、声がフェードアウトしていくんだろうな、と思っていた。
だって、ここは新幹線の中。
しかもほら、立ち上がって一歩踏み出せば、そこはデッキだ。
ところが、「あー、あの件ですよー。入金が確認できなかったんですよー。困りましたよー」
サラリーマン風の推定43歳、なんと腰を据えて喋り始めた。
内容は、金を振り込ませるだの、ああだの、こうだの、とにかく金の話。
と、そこに、車掌さんがやってきて、推定43歳のところで立ち止まった。
注意してよね、と2列目から車掌さんをガン見する。
(いや、視線を送る。プレッシャーをかける)
ところが、どうも、推定43歳が自由席券で乗り込んだらしく、
すべての席が指定のこの新幹線内では、指定席を買わなければいけない。
「お客様の希望の窓際は、ちょっといっぱいでして・・・・ちょっとお待ちください」
発車したばかりで忙しいらしい車掌さんは、
「とりあえず、その席は人が来ますから、横の席にずれてください」
とだけ言って、去ってしまった。
次の駅で、その席に男性が座った。
そしたらもうひとりがやってきて、「あれ、ここは私の席では?」と隣の推定43歳に声をかけた。
いひひひ、と密かに喜ぶ。
とその時、あ、やばい、と思ったワタシは、自分のバッグを隣の座席に置いて、
そしらぬふりで、窓の外を眺めた。

ああ、あぶない。横に座られちゃったらたまらない。

一難去った後、周りを見回して、さらにびっくりしてしまった。
斜め前のサラリーマンは、ウェブ会議に参加してる。
パソコン上に顔がいっぱいあって、
ぼそぼそ、仕事の話をしている。(この人は、遠慮がちに小声だった)

横の席の人は、一心不乱にパソコンのキーボードをたたき始めた。
その奥の人も、パソコンでメール中。
あっちでもこっちでも、仕事中。

ひえーと、心の中で悲鳴を上げたくなってしまった。
私はこれから、取材なのだけど、
移動の間は、頭の中を休めて、ぽけーっと過ごしたい。
車窓から見える新緑や、まだ雪を被った山並みや、黄色やピンクの花々がとってもきれいなのに、
カチャカチャ、ものすごい勢いのキーボードの音で、
全然気持ちが休まらない。

ふと、座席の前のパンフレットに目が留まり、
ああ、そういうこと、と腑に落ちた。
これが、デスク車両ってやつでしたかー。

パンフレットを見ると、その車両では電話もオッケイらしい。(イラストが描いてあった)
走るオフィス状態ね。
私はまた、あの推定43歳は、わざとお金の話を大声でして周りに虚勢を張るタイプの、
やばいタイプの人なんだと思ったけれど、そういうことでもなかったらしい。

その新幹線の席は、編集者さんが取ってくれた。
同じ車両の離れた席に、カメラマンさんと編集さんも乗っていた。

そんなわけで、翌日、取材を終えて東京に帰る新幹線は、
デスク車両じゃないやつ、で。
夜10時頃東京駅に着く車両だったけれど、
その時間のデスク車両って、どんなだったんだろう、と気にもなったけれど、
そんな時間に仕事モード全開の人が近くにいたら、耐えられない。

一日仕事をして、頭の中はまだオーバーヒート状態。
身体はヘトヘトに疲れていて、
近くの席の人たちの、ぼそぼそっと喋る声くらいが心地よかった。

金沢駅で買った「蛍いかの釜飯」弁当が当たり!
今回も、最高の出会いに恵まれて、いい取材ができた。感謝。
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by naomiabe2020 | 2023-04-14 16:12 | ライターの仕事 | Comments(0)

フリーライター阿部直美のブログ。カメラマンの夫とともに、「お弁当」を追いかけて日本全国を旅しています。日々のちょっとしたことを綴るブログです。


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