喫茶店主に会うために

取材の依頼は、いつも緊張する。
私は、どんな取材の時でも、
なるべく最初は電話をかけて、直接取材の趣旨を伝えるようにしている。
メールやファックスは、その後で。
最初からメールというのは、基本やらない。
メールは、楽ちんだ。
相手にぽーん、とボールを投げて、返ってくるのを待てばいい。
でも、それでは、返ってこないボールもある。

それに、なんだか味気ないじゃないか、と思うのだ。
人と人のつながりは、まずは会うこと、声を交わすことじゃないか、と思っている。
そう、信じている。

とはいえ、電話で知らない相手に何かをお願いすることは、
ホントのところ、苦痛でさえある。
だって、そうだ。
声がうわずったり、テンションがおかしくなったりして、
変な汗が出てくるのだ。

最近、かなり苦戦した。
電話の相手は、喫茶店主だ。
飲食店に電話をするのは、相当気を使う。
今頃は、どんなお客さんがいるんだろうか、
店主がひとりの時間なんだろうか、
電話は、店のどの場所にあるんだろう。

地方都市にある喫茶店。
夕方4時頃、電話をかける。
この時間だったら、ランチを過ぎて、ひと息ついているはずだ。

私が高校時代にバイトをした「トアルコ」なら、
マスターが、音楽を聴きながら空いた席に座って、
ひとりで紙ナプキンを折っている時間だから。

「あの・・・取材のお願いの電話なんですけど・・・・」
「今忙しいから後で電話ちょうだい」
そう女性店主に言われて、
「すみません・・・」とすぐに切る。
後っていつ頃? 
ネット情報では午後7時に閉店だ。
6時に再度チャレンジ。
「あ、今フライパン持っちゃったから、後にして」
えー? フライパン持ちながら、電話に出てるの?
びっくりしながら、「すんません・・・」と切る。

6時50分なら、フライパンは振っていない。
ああ、でもお会計の頃かしら。
ベルが鳴り続けるが、電話に出てもらえなかった。
じゃあ、ラストチャンスで6時55分。
10回コールしたけれど、出ない。
もしかしてさ、帰っちゃったの? そうとしか思えない。

なんだか、気持ちが萎えて、このお店はやめることにした。
タイミングと相性ってあるよね、と自分に言いきかせる。

私がやろうとしている取材は、店主と向き合って話を聞かせてもらう、というものなので、
もし取材オッケイと言われても、
向き合ってみたら、うまくいかないような気もする。

ほんの一瞬の声でも、なんとなく相手を知ることができるから面白いなあと思う。
電話ですれ違ってしまっても、
ああ、この人と何とかしてちゃんと連絡をとりたい、と粘る場合もある。
これは、理屈じゃなくて、自分の直感でしかないのだけれど。
声って、すごいのだ。

ということを、繰り返しております。
これをやっていると、あっという間に一日がすぎてしまう。

先週は、東北の喫茶店旅をしてきました。

もう言ってもよいのかな。
「旅の手帖」5月号から、「喫茶店のあるじ」の連載が始まります。
今日、私の手元に届きました。
店頭に並ぶのは10日らしい。

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ワタクシ、「ネルドリップ」デビューしましたよ。
朝のコーヒーが、断然違います。
と言いたいところだけれど、「違う」っていうのは、
お店でマスターが淹れてくれたのと全然違うなあ、ということ。
同じ豆で淹れているのに、あの味は出せません。
そりゃ、そうだ。
これから、探求するのだ。































by naomiabe2020 | 2023-04-07 17:46 | ライターの仕事 | Comments(0)

フリーライター阿部直美のブログ。カメラマンの夫とともに、「お弁当」を追いかけて日本全国を旅しています。日々のちょっとしたことを綴るブログです。


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