最近お世話になっているクリニックの先生は、
とても素敵なおばあちゃまだ。
おばあちゃま、なんて聞いたら、本人は怒るかもしれない。
オシャレで上品な、人生の先輩。
いつも背筋が伸びている。
この前は、白衣の下のセーターはシバザクラのような鮮やかなピンク色だった。
大きなマスクで顔の半分は見えないけれど、鮮やかな色の口紅を塗っているのかな、
といつも想像している。
「心臓がバクバクして夜中に何度も目がさめちゃうんです。
そわそわ、するというか・・・」
この一週間のことを、簡単に伝える。
脈をみてから、お腹を触診。
そこで、先生がおっしゃった。
「ねえ、ご家族で最近命日だった人はいるの?」
え?ええ??
最初、日本語が頭に入ってこなくて、ぽかーんとし、
少しして、追いかけるように、先生の言いたいことがわかった気がして、
「あの、うちの父の命日は、つい最近でしたけど・・・・。
でも、もう7回忌も終わってますけど・・・・」とこたる。
「あなた、そわそわするんでしょ。亡くなった人が何か伝えたいってこと、
よくあるのよね」
思わぬ展開に、びっくりした。
「ところで、そのお父さんっていうのは、実の父親?
こういう場合は、婚家の父親のことを、まず言うものなのよ」
ここでまた、衝撃を受ける。
先生のことを、時代の先駆けでもある新しい女性、と思っていたけれど、
ずいぶん、古風じゃないか。
婚家とは。
あなたは結婚したんだから、そっちの家の人になってるのよ、というニュアンスだ。
(ちなみに、医学の世界だったら、遺伝する実の両親のことを話題にするものだけど・・・・)
「義理の父も、亡くなりました。でも13回忌を去年済ませてますけど」
「あら、そうなの。お母さんは元気?」
「はい、母親はどっちも元気です」
そうなのー、おかしいわねー、
先生は、「虫のしらせ」説をいきたいらしいが、私は断然、正統派の「ホルモン」説でいってほしいので、
「先生、私これまでずーっと生理になるタイミングで体調が悪くなっていて、波があったんですけど、
この年齢になって、その波が大波になっているみたいです。特に今、それがすごくて・・・・」
みたいなことを、述べる。
そこで、「はい、わかりました。じゃあ、また」
いつもの先生に戻り、診察は終了。
処方された漢方薬は、薬剤師さんいわく、更年期による心臓ばくばく、などにつかわれる
どまんなかのもの。
先生は、カルテに、今日の聞き取りの結果を書いていた。
父親7回忌、とか書いたのかしら。
でも、そういうところ、私は好きだったりする。
最近、パソコンの画面ばかりしか見ずに、ずっとカチャカチャ文字を打つドクターばかりだから、
ペンで文字を書く先生、しかも、横道に逸れた出来事も書いておくようなところは、
個人的に好感を持てる。
東洋医学は、身体全体を診るものだからね。
どこに、ヒントがあるかわからないし。
ちなみに、我が父。
私の夢に、ちょくちょく顔を出す。
つい先日だって、ごく普通に家にいた。
父は、夢の中でもやっぱり父で、
私が何か探しものをしていたり、旅支度をするのであたふたしていても、
「俺の飯は、どうなってる?」とか、マイペースに登場する。
だから、何か言いたいことがあるなら、
夢でセリフを言ってちょーだい。