見られている・・・・・

少し前のこと。
最寄り駅から家に向かう途中、自転車にまたがっていた。
夕方のその時間、駅前の商店をたくさんの人が行き交っていた。
すると、くるくるくる・・・と、道路の上を落ち葉が風に舞って駆け抜けていくように見えた。
木枯らしに葉っぱが吹き飛ばされたよう。
でも季節は春。なんだ? その変な動きの茶色いものは?と目を凝らしてみると、
なんと、ネズミだった。(可愛い顔をしている!)
道路の左から右へ、横断しているところ。
しかもそのネズミ、あまりの人通りの多さにビビっていて、男の人の足にぶつかってよろめいた!
そして、ちょこまかと足元を潜り抜けていき、道路を無事に横断。
物陰に消えていった。
たぶん、ほんの数十秒のこと。
足にネズミがぶつかった男性は、なにも気づかず(顔色も変えず)歩き去った。
なんで気づかないんだ。
のんきにもほどがある。
でもまあ、都会の道を歩いていて、ネズミとぶつかるとは思っていないということか。

確か1、2年前、家で夕飯を食べていた時、
目の前に座っているサトル君が、目をかーっと見開いて「たぬき!」と叫んだ。
はい? なんですか? 人の顔を見てたぬき、とは。
尋常ならぬ興奮状態に、思わず後ろを振り返った私は、網戸越しにラスカルを見た。
窓のむこうの塀にアライグマがいて、こっちをじっと見つめていた。

東京に暮らしていると、動物の気配にかなり鈍感になっている。
身近にいても、気づかない。
いつも不意打ち。

先週、栃木県の山間の集落へ行ってきた。
ちょうど特産品のかぶの収穫時期だった。
ほかの中山間地域同様に、野生動物が人里近くに下りてきていて、
畑を荒らしてしまう。
獣害、に悩まされている地域だ。

これまで生活の場でもあった裏山にどんどん人が入って、
人間臭くして、動物たちには居心地が悪いと感じてもらおう。
そして、もっと山奥に帰ってもらおう!という活動をしている団体を訪ねていった。
団体代表の彼は、それをラグビーに例えて、今は動物の側の圧が強くてぐいぐいとこっちに来ているので、
それをちょっとずつ押し戻していきたい、という。

彼の案内で、山を歩いた。
サル、鹿、カモシカ、たぬき、いたち、イノシシ、そしてクマのいる山だ。
人間臭をふりまきながら歩く。

見られている・・・・・_c0402074_14155490.jpg
クマがやったと思われる。
しかも、つい最近の爪痕。

見られている・・・・・_c0402074_14155865.jpg
見晴らしのいいこの場所から、人間の様子をじーっと見ているのかもしれない。
木肌を剥がしたのは、この場所のすぐ下あたり。

最近、裏山に人間が入ってくるようになって、確実に居心地が悪くなったクマの脅しなのか、
切羽詰まってきて「やめてくれよー」というメッセージか。

山の中を歩きながら、ひしひしと視線を感じた。
野生の動物たちが、じっと息をひそめている。
私たち人間の様子を、どこかで見ている。
なんともいえない、不思議な気分だった。

代表のKさんが、「動物の目線になってみる」といって、
しゃがんで目線を低くした。
動物だったらどんな場所が心地よいのか、
どこをどう通って移動するのか、探っているところなんです、と言った。
Kさんの話はすべてが実体験に基づいていたり、地元のお年寄りに聞いた話だったりして、
面白いし説得力がある。

害だから殺す、というのとは違う、
彼らのことを知って、なんとか共存の道を探るやりかたが、うまくいってほしい。


























by naomiabe2020 | 2022-06-09 14:38 | ライターの仕事 | Comments(0)

フリーライター阿部直美のブログ。カメラマンの夫とともに、「お弁当」を追いかけて日本全国を旅しています。日々のちょっとしたことを綴るブログです。


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