「THIS IS US」

夕飯を早く終えて、ぱぱっと皿を洗って、
どかっとソファに座って、さあ始まるよ、と声をかけると
必ずサトルさんは「ちょっとトイレ」と言い出す。

いつの間にか、彼も一緒に観るようになっていて、
こうなるとひとりでこっそり、何話も観てしまおう、ともいかず
足並みを合わせなくていけないのが、ちょと・・・・あれだ。

「THIS IS US」アメリカのドラマ。
シーズン5 をアマゾンプライムで観ている。
やっと無料配信になった。

本当は一気に全部を観たい。
そこをぐっと抑えて、ちびちびと1話、2話ずつ。
これが、今の私のなによりの楽しみ。

家族のことばかり考えて生きてきた私みたいな人間には、
このドラマのどんな場面も会話も、ぐわんぐわん響いてしまう。
とりたてて、すごい事件が起こることもない、
家族の日常の物語なのに、ひとりひとりの描かれ方がとにかく丁寧で驚いてしまう。

3つ子の父ジャックは、魅力的な人だ。
自分の父親のことが嫌いで、父親みたいにはなるもんかと心に誓って大人になり、
3つ子の親になった。
大嫌いだった父親の回想シーン。
だいたいドラマでの回想シーンは、昔観たものが何度も繰り返し流れて、
ああ、知ってるよ、わかったよ、と内心しらけてしまうのだけれど、
このドラマは、そこが違う。
過去の回想シーンがいつも新しいのだ。
過去に見たことのないシーンが、次々と出てくる。

これはきっと、シリーズを撮影する時に、
子ども時代、現代、(未来も!)の役者が集合して、
過去も現代も未来も、同時進行で撮影されているからだと思う。
そんなドラマの作り方って、聞いたことがない!

例えば、酒を飲んでいばりちらすジャックの父親、の回想シーンは、
普通のドラマだったら同じものを何度も流す。
それによって、ステレオタイプの「酔って威張り散らす男」が出来上がる。
でもこのドラマの場合は、
家庭生活のいろんな場面のなかでの「酔っぱらう父」が回想される。
その酔っぱらう場面は多様で、
例えば、息子の少年野球を観戦にくる父親は、ビールを必ず持参して、
試合に勝てば明るい酔っ払いになり、負けると息子を味噌くそに罵倒する酔っ払いになる。
家でテレビを観ながらビールを飲み続ける父は、
いつもは妻に悪態をつくのに、妻と並んでにこやかにテレビを観る日もある。
息子は安心するのだけれど、ふと発した父の一言で家族が傷つく。というふうに。

父親が嫌いだ、の感情がどんなふうに芽生えていくのか、
どんなふうに、小さな怒りや絶望をためていったのか、
シーズン1から5まで、ドラマを見ながらそれをこちらも味わうことになる。
人は単純じゃないから、お決まりの回想シーンでその人を語るのなんてばかげている。
その人を、ある出来事だけで型にはめることなんてできない。
毎日生きていくなかで、小さな絶望が1つ、また1つと増えていき、
そこに、あれいいところあるじゃん、許そうかな、という小さな希望が顔を出し、
でもやはり、だめだ、となったりする。

このドラマを観ていて思うのは、
今を生きながら、自分は過去と共に生きているんだよな、ということだ。
いつだって、過去が私の中にある。大きく支配している。
あの日の父と母、がいつでも私の中には生きていて、それが顔を出す。
良くも悪くも、これまでの過去が、私を動かしている。

そのことを、このドラマはそのまま体現しているからすごい。
とにかく、奥行きがある。人を簡単にくくったりしない。
登場人物ひとりひとりが、
今なぜこういう行動を起こすのか、こんな感情を持つのかを、
過去にさかのぼりながら見せてくれる。
過去がすぐ隣にあって、その人を突き動かしていることがよくわかる。

ここまで「家族」について徹底的に向き合うドラマは見たことがない。
私にとって、人生のベスト!は
「大草原の小さな家」と「北の国から」なのだけど、
「THIS IS US」も、その次に好きだ。







































by naomiabe2020 | 2022-02-03 11:33 | 日々のこと | Comments(0)

フリーライター阿部直美のブログ。カメラマンの夫とともに、「お弁当」を追いかけて日本全国を旅しています。日々のちょっとしたことを綴るブログです。


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