ガリンペイロ

夜、寝る前の布団の中で読むには、なかなか刺激的だった
「ガリンペイロ」(新潮社)。
著者 国分拓、の名前に、これは間違いないぞと確信を持ってすぐさま本屋のレジへ。
へその横に荒々しい傷跡があって、首からキーをぶら下げた男の写真の表紙、
この人の目が、なんだかすごい。妙に惹きつけられるのはなんでだろう。
一度見たら、もっと見たくなる。ずっと見ていたくなる。

なんの前知識もなく、読み始めた。

国分さんはNHKのディレクターだ。
NHKスペシャルのすごい番組を作っている人なのだけれど、私が最初に出会ったのは本でだった。
「ヤノマミ」を読んで、まず圧倒された。
次に、「ノモレ」。
これも、まず本で読んでから、NHKスペシャルの番組を観た。
どちらも、南米アマゾンに暮らす原住民を取材したドキュメントで、
そもそも、通訳を介しても言葉が通じない、共通言語というものが存在しないなかで、
日本からはるばる密林の中に入って取材するのだ。
そういう人って、マッチョで病気知らずの冒険家、のイメージなのに、
「ヤノマミ」の本を読むと、国分さんには全くそんな感じがしない。
とても繊細な人じゃないかしらん。
人の気持ちを感じすぎて、悩んだり自己嫌悪に陥ったりしながら取材をすすめる姿勢が、
なんともいえず、良かった。
ファンになってしまった。

「ガリンペイロ」は、待ちに待った作品である。
NHKスペシャルでもう放送されちゃったんだろうな、と思いつつ(ヤノマミとノモレの時もそうだったから)
国分さんの書く文章が好きなので、読み始めた。
そして、どんどん進むうちに、気になってくる。
これ、本当にテレビ番組になったのだろうか。

ガリンペイロとは、ブラジルの山奥で、
一攫千金を狙って、非合法の金鉱山で採掘する男たちのことだ。
非合法の金鉱山なんて、世の中に存在していないはずの場所ってことで、
警察とか、国際機関とか、そういう何かの時には助けてくれそうな人たちとは繋がっていない場所だ。
国分さん、今回はガリンペイロ経験者のインタビューでこの本を書いたの?
なんて最初は思った。
いやいや、ムリだ。
ここまでの描写は、実際にその場にいなければ書けない。

途中、「あとがき」を読みたくてうずうずするも、我慢した。

21歳の、好奇心がやたら旺盛で、
でかい夢ばっかり語っている新入りのガリンペイロを軸にして、
物語みたいに人間模様がひろがっていく。
酔っ払い男も、暴力的な男も、女好きな男も、冷淡なボスの手下も、
皆が人間臭くて、読んでいるうちに隣人のような気分になっている。
悪の巣窟に暮らす、荒くれ男たちのはずなのに。
彼らの孤独が、自分と重なったりするのはなぜだ。

国分さんの、見る力、感じ取る力と書く力に敬服。
ぐいぐい引き込まれて、わざわざNスぺを観なくても頭の中で広がるこの物語のほうがもっといいかな、
と思う。

読み終わって、また表紙の男を見る。
目が合ってしまうと、そらせない。
なんなんだ、このたぎるような生命力。人間臭さ。危なげなところと脆そうなところ。

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by naomiabe2020 | 2021-05-25 12:39 | 日々のこと | Comments(0)

フリーライター阿部直美のブログ。カメラマンの夫とともに、「お弁当」を追いかけて日本全国を旅しています。日々のちょっとしたことを綴るブログです。


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