地方で1人暮しを始めた娘から、電話がきた。
「ロールキャベツ作ろうと思うんだけど、味付けってどうすればいい?」
「えー、ロールキャベツ?!随分頑張るねー」
「まあ、私が作るのは、まかないロールキャベツだけどね」
賄い? ああ、巻かないってことですかい。
「野菜ブイヨンみたいなスープの素を入れて、味付けは塩コショウくらいかな。
シンプルでも、肉のうまみが出てくるから美味しいよ」
そして、1時間半後。
ビデオ電話で、どんぶりに入ったものを頬張る娘の姿が。
それは、肉団子とキャベツが浮いたスープだった。
「なんかさ、味が決まらないからトマト缶入れてみたんだけど、
それでも味がいまいちなんだよね」と言いながらも、まんざらではない顔で食べる娘。
また別の日。
「今日はスーパーが、肉の日だったんだ」
と言い、肉じゃがを作ったとのこと。
またまた例のどんぶりで。
「初めて、自分で作ったもので美味しくできたなって思ったよ」
満足の出来だったらしい。
副菜に、キムチとキュウリの細切り、鶏のささ身をあえたものもある。
「ささみは、何分茹でたの?」と聞けば、
「お酒を振って、レンジでチン」と言う。
「だって、コンロが1つしかないんだもん、レンジのほうがいいよ」
感心した。
もりもり食べる娘を見ながら(ビデオ電話。ひとりで食べるのがさみしいらしく、
食べながら電話をかけてきた)
こういう話題で、俄然張り切るのはサトルとうちゃんだ。
「キムチとささみときゅうりは、いいアイデアだなあ。絶対美味しいよなあ」
(絶対、数日後に夕飯に出てくるはずだ)
そして、彼が最近編み出した(テレビで見た)パスタを伝授。
「今、春キャベツが美味しいからさ、キャベツのパスタがいいよ。
ニンニク入れたオイルをよーく熱して、まあ、この時アンチョビとか入れると味がでるかな。
それでさ、パスタを茹でて、最後の最後にさっとキャベツを湯に入れてゆでるんだよね。
パスタと一緒にキャベツを出して、そうしたら、ニンニクオイルとあえて出来上がり。
コンロがひとつでも、簡単だよー」
嬉々として喋るとうちゃん。
娘も、もはや1か月前の娘ではない。
けっこう、目が本気。「アンチョビじゃなくて、しらすでもいけるよね」と。
毎朝、しらすをご飯にのっけて食べている様子。
そんな話をしていたら、ピンポーンと娘の家のインターホンが鳴った。
こんな時間に誰かいな? と親もドキドキしながら、息をひそめていると(ビデオ電話、つづき)
下の部屋の学生が、挨拶に来てくれたのだった。
娘が引っ越してから、何度か挨拶に尋ねていったのだけれど、
会えなかったので手紙を入れておいたのだ。
大きな立派な「長芋」を抱えて戻ってくる娘。
挨拶に、長芋を持参するって、すてきだなあ。
娘の暮らす土地では、農家バイトが学生たちにとってポピュラーなアルバイトなのだ。
農家さんから、いっぱいもらうらしい。
「ねえ、長芋ってどうやって食べる?」
そんな会話をしながら、不思議な気持ちになる。
私が知っている娘とは、なんだかいろいろ違う気がするのだ。
へえ、ほお、といちいち心の中で感心したり、驚いたりしている。
食欲があるって、何よりだ。