「翼の王国」が・・・・

ANA機内誌「翼の王国」の最新号。
2021年・3月号のページを、特別な思いでめくっている。
吉田修一さんのエッセイ「空の冒険」の冒頭が、
「足かけ15年。長く続いたこの連載エッセイが、今号をもって終了する。」

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坂内拓さんの、この絵。すごくいいけれど、さみしいな。
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左が、2007年の4月号。右が、最新の2021年3月号。
2007年の4月号が我が家に届いた日、私は嬉しくて嬉しくて
娘の保育園のママ友の食事会にそれを持って行って、「じゃーん」と披露したのを覚えている。
それまで、「弁当の取材をしてるの」と言っても、弁当? 一体なんのこっちゃ? とみんな思っていたはずで、
「へえー、こういうことやってたんだ」と知ってもらえたのも、この時だった。

憧れの雑誌だった。
この4月号は、(株)トドプレスが編集を請け負うことになった最初の号で、
つまり、すべての企画がぴかぴかの第1回目だった。
横並びで、全部が一斉にスタートを切ったかたちだ。

表紙は、スペイン在住の画家 堀越千秋さん。
毎回、ホントに楽しみだった。
(突然の訃報に、ショックを受けた・・・)
本城直季さんの「東京新風景」。
途中から「ニッポン新風景」となった。
島泰三さんの「日本水族館紀行」は、
「動物園」にうつり、今は「天然記念物のいきもの図鑑」となっている。
原口純子さんの中国レポートのページ、
菊池理さんの「日本の名画を旅する」
おいしい手土産の長友啓典さんや、稀書探訪の鹿島茂さん、
吉田修一さんは、当初はエッセイでなく読み切り小説だった。
「京都の流儀」徳力龍之介さん。
2度目シリーズの門上武司さん。・・・・他、多数。

連載陣はみな、私にとっては雲の上の人たちだった。
私はあのなかで、一番の下っ端というか、書かせてもらっていいんでしょうか、
という状況だった。
なんせ、自称ライターだったから。
(「おべんとうの時間がきらいだった」(岩波書店)の3章を参照くださいませ)
あの時、手元に届いた「翼の王国」をめくって思ったのは、
「私のところに、プロフィール欄がなくて良かったなあ」だった。
とほほ。
私には当時、書けるプロフィールなんてなかった。
著書だとか受賞した賞とか、教授のような肩書きとか、今につながる経験とか、特に何もない。
何もない人が、ああいう雑誌に文章を書いてはいけない気がしていた。
そのことが、ばれてはいけない気がした。
だから、誰も知らない阿部直美が、気づいたらそこにいる、くらいが丁度いいと思った。
ちなみに阿部了は、「立木義浩氏のアシスタントを経て、フリーのカメラマンに」でも、十分いける気がした。
しかも、彼はペンタックスギャラリーで写真展もやっていたし(四角い宇宙)、
そういう意味では、プロフィールを書ける人だった。
それと並べたら、私は「その妻」で「ライター(自称)」でしかなかったのだ。

あの頃、連載陣のみなさんに会える日がくるんだろうなあ、と能天気に思っていた。
編集部の主催で、連載の人同士の集まり、というものがあるとばかり考えていた。
親睦を兼ねたパーティ、みたいなもの。
今年もみなさん、お疲れ様でした! 的な忘年会とか。
出版業界は、どこか華やかなイメージを勝手に抱いていて、私は密かにその日を心待ちにしていた。
でも、私みたいな得体のしれないライターが参加しても、皆さんは何を話してよいのか困るだろうから、
連載をいいものにしなきゃ、とも思っていた。
「おべんとうの時間」おもしろいよ、と言ってもらいたい。
頭の中でひとり妄想を膨らませ、その日のためにも頑張らねば、と意気込んでいた。

しかし、いつまでたっても、お声がかかることはなく、
どうやらパーティは開催されなかったようで、
気付けば14年である。
今になってみれば、そんなのあるわけないよなあ、である。
うぶだった。

2007年の4月号、ページをめくりながら、実はもうひとつ感じたことがあった。
他のひとの連載には、連載の1回目ということで「①」とか「第一回」との表記があったのだけれど、
私たちの「おべんとうの時間」には、つかなかった。
全部の連載が初回だったから、すべてに1をつけたら、デザイン的にもうるさくなるよね、
そりゃそうだよね、と夫婦で言い合った。
でも内心では、私たちの連載はいつ終わってもおかしくない、と思われているんだよね、とも。
だって、内容的に相当な冒険だったから。
私たちの連載には数字がついていないけれど、とにかく1回1回、大切につなげていこうね、と、
ふたりで言い合った。
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この3月号は、岩手県宮古市の消防署に勤務する加藤さんに登場いただいた。
10年前の東日本大震災の日、その後の話も伺った。
田老にご実家があった加藤さん。田老の町は、壊滅的な被害にあった。
被害にあった方々にとっては、10年がたっても、
つらかった思いが癒えることはないと思うけれど、
少しずつ、少しずつ、気持ちを明るくできますように。

この3月号で、いまのスタイルの「翼の王国」が終了する。
ひとつの時代が終わった、というさみしさがある。
雲の上の存在の方々と一緒の雑誌で、マニアックに弁当連載を続けられたこと、
なんて幸せだったか、と改めて思う。

おっと、待った。
「おべんとうの時間」の連載は、これからも続きます!!
4月からの新しい「翼の王国」は、
ウェブと冊子のスタイルで、今とはがらりと雰囲気も変わるようです。
(と言いつつ、私たちには全体がどんなものになるのかまだわからないのです・・・)

皆さん、これからもどうぞ「おべんとうの時間」を、よろしくお願いいたします。






by naomiabe2020 | 2021-03-07 16:56 | ライターの仕事 | Comments(0)

フリーライター阿部直美のブログ。カメラマンの夫とともに、「お弁当」を追いかけて日本全国を旅しています。日々のちょっとしたことを綴るブログです。


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