オリーブ・キタリッジ ふたたび

「オリーヴ・キタリッジの生活」
エリザベス・ストラウト 小川高義/訳(早川書房)
を読んだのは、もう10年以上前。

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このたび、続編を書店でみつけた!
「オリーヴ・キタリッジ、ふたたび」
さっそく、夜寝る前の読書タイムに本を開いている。
私は、短編集はあまり好きではない。
なぜなら、せっかく物語の世界にぐぐーっと入り込んだのに、
あっけなく幕を閉じ、次のページからは全く違う世界に突入する。
できれば、もっと長くその世界を味わいたい。
せっかくいい話だったのに、余韻を楽しみたいし、そんなに移り気なことをしたくないのだ。
しかしこの本は、短編でありながらも「連作短編集」とあって、
どこかで、つながっている。
アメリカのメイン州の小さな港町「クロズビー」に暮らす人たちが登場する。
オリーヴは、登場したりしなかったり。
いろんな名前が出てくるので、こんがらがるのだけれど、
訳者の小川さんが、前作のあとがきでこう言っていた。
「町の人々が何人も登場するので、誰が誰だったか忘れそうになる。そんなことを言うアメリカの評者もいるくらいなので、
なおさら片仮名の名前が覚えにくいかもしれない。とくに、ケヴィンという人物が2人いるので、いささか紛らわしい。
ただ、どこの町にだって、よく知っている人も、おぼろげにしか知らない人もいるのだから、少しくらい忘れてもかまわないというつもりで、
どんどん読んでいただければよいと思う」
そうなんだ。うまいこと言うなあ、と思った。
町と、そこで暮らす人たちが、いろんな場面で交差して、
特に事件が起こるわけではない、ただの日常が書かれているのだけれど、
読みながら、自分もその町の人になった気分になる。

昨晩読んだ章は「母のない子」。
オリーヴの息子クリストファーが、結婚した相手(アン)と子供たち(アンの連れ子2人と夫婦の子ども2人の計4人)を連れて
帰省した。何年ぶりかの息子との再会。
つれない息子と不愛想なアン、それに、口もきかない孫たち。
朝ご飯に、息子が指定しておいたシリアルがない、と言われて、慌てて車を走らせてスーパーへ行くオリーヴ。
でもわざわざ買ってきたシリアルを見て、孫は喜ぶどころか、お母さんのアンに耳打ちする。
「ねえ、なんで(オリーヴおばあちゃんは)リサイクル袋を持って買い物に行かないの?紙袋に入れてもらってるの?」
アンは言う。
「そうね、人それぞれの暮らし方があるの」

オリーヴは、憤慨する。あたしだって急いでなけりゃ、ちゃんと袋を自分で持って買い物にいったわよ、と。

どうってことなエピソードのなかに、著者はすごい本質を込めてくる。

オリーヴが、「私再婚するのよ」と息子に告げた時、
息子があからさまに嫌がって、再婚相手を前に子どもっぽい無礼なふるまいをした。
それを見たアンが、クリスを叱りつけた。
息子が妻に怒鳴られるのを見て、
オリーヴはショックを受ける。そして、過去を振り返る。
「オリーヴ自身もアンと同じことをしていた。人前で夫のヘンリーをどなりつけた。誰の前だったかよく覚えてもいないのだが、
ともかく、その気になれば平気で痛烈なことを言っていた。つまり、こういうことだ。
あの息子は母親と結婚したようなもの。あらゆる男が、何らかの形でそういうことになる」

著者のエリザベス・ストラウトが書く親子の関係は、
私にはとても、ひりひりする。
温かい、円満な家族とは違う。
どこかでボタンの掛け違いのようなことが起こり、
かみ合わない親子、夫婦が、それでも同じ屋根の下で生きている。
でも、誰が悪いっていうのでもない。
ただ、違う、ということ。
人はそれぞれ違って、すれ違うし、毒もはくし、
いじわるもするし、傲慢だし、でも情にもろかったり人助けをしたりする。
一筋縄じゃないよね、というのがある。
私が育った家庭のことでもある。
父と母のことを思う。

実は、エリザベス・ストラウトの著書に
「私の名前はルーシー・バートン」というのがある。
その続編で「何があってもおかしくない」も出た。

私がエッセイ「おべんとうの時間がきらいだった」を出した後に
本の紹介でインタビューをしてくれた雑誌の編集者が、
「阿部さんの本を読んだ時、【私の名前はルーシー・バートン」のことを思いました」と言ってくれて、
すごく嬉しかった。
あれは、娘と両親の話だ。
娘は強烈な両親のもとで育ち、その後都会に出て作家になった。
その作家の名前がルーシーで、子ども時代を振り返りながら、育った町のことを回想する。
町のいろんな人が登場して、それぞれの人生が交差する。

家族について、人の内面について、
こんなふうに文章にできる作者を心から尊敬する。

ああ、今晩も楽しみ。
つづきが待っている。



















by naomiabe2020 | 2021-02-18 18:03 | 日々のこと | Comments(0)

フリーライター阿部直美のブログ。カメラマンの夫とともに、「お弁当」を追いかけて日本全国を旅しています。日々のちょっとしたことを綴るブログです。


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