「炭盆」(すみぼん)と出会ったのは、取材で訪れた長野市の信級(のぶしな)という山間の集落でだった。
炭焼き職人の関口さんのお庭には、ゴロゴロと野生的な趣いっぱいの「炭盆」があった。
炭盆とは、うまく言ったもので、自分で焼いた炭を鉢植えがわりにした盆栽のことだ。
「ひとつ、持ってきな」と、その日、関口さんは育てやすそうなものを選んで私にくれた。
のぶしなは、高齢化が進んだ集落なのだが、関口さんはすごい人で、
若者が2組、集落に移住するきっかけを作った、キーパーソン的な役割の人でもある。
素朴で、あたたかくて、面倒見がいい、すてきなおじいちゃま。
いただいた炭盆を、「大事に育てます!」と誓い、
私は東京に持ち帰ったのだけど、
枯らしてしまった・・・・とほほ。
コケが素敵に生えていたのに、干からびてしまった。
そして、昨年の秋。
仕事で神奈川県の大船駅に降り立って、「おや?」と目を見張った。
なんだか、知っているかんじ。
ああ、炭盆だ!と気づく。
駅の改札を出てすぐのスペースで、浅野さんが炭盆を販売していた。
「のぶしな」から、トラックに積んでもってきたとのこと。
関口さんの協力で、「炭盆」作りを始めた浅野さん。
丹精込めて育てられた、かわいらしい盆栽がいっぱい並んでいた。
ひとつ買い求めた。
「大切に育てますね」とまた、誓った。

実は、あの後、枯らしてしまった。
またもや、失敗。
あああああ、と絶望的になったものの、あの日の浅野さんの言葉を思い出した。
「のぶしなでは、冬の間は雪の中に入れておくんですよ。
雪がとけて春になると、芽吹いてくるんですよ。自然の力はすごいですよ」と彼は言っていた。
そうだ、冬の間外に置いておこう。
寒い日も、そのまま室外に置いて、一冬過ごして春になってみたら、
葉っぱが茂って、ほら、この状態!
元気いっぱいになった。