私は、歩く派だ。
コロナで体がなまってきた皆さんが、にわかに走り始めているけれど、
私は、断固歩くのだ。
子どもの頃から、走るのがきらいだ。お腹が痛くなるし、具合が悪くなるし。
楽しみがわからない。
さっきから、うえっ、うえっ、と喘ぎながら走る若者がいる。
窓のむこうから、響いてくる。
昨日は、午前中だった。
今日は、夕方。
ほぼ毎日、走る彼。
彼は、これまで公園の中のトラックを走るのが常だったのだけれど、
コロナで公園内が閉鎖になってから、路上で走る。うちのわき。
いがぐり頭で華奢な体つきの青年は、いつだって本気の走りで、
ぶっ倒れる寸前、みたいだ。
うえっ、ひえっ、ぎょえっ、ああっ、ああっ、と、とにかく喘ぐ。
(スピードをあげているのだ)
ちょっと怖い。
知らない人が普通に歩いていて、この声が背後からきたら、引くと思う。身構える。
不思議な走りだ。
頑張っているのはよくわかるのだけど、聞いていると、息が苦しくなって心がざわざわしてしまう。
毎日頑張っているし、応援したいところだけど、
なぜだか、無理しなさんな、と言いたくなってしまう。
前にトラックを走っている時、お母さんらしき人が、タイムウォッチを持って「がんばってー」と声をかけていた。
熱血おかあさん、の姿はその後もちょくちょくあって、すごいなあと思っていた。
今も、道のどこかに立っているのだろうか。
親子は、何を目標にここまで走り込んでいるのか知りたい。
果たして、競技会場で、あんなに喘いでもいいのかしら。
あああっ、あああっ、の後に、ひえーん、のような倒れ込むような感じの響きも加わった。
なんだ? ゴールを路上に設定したのか?
もう、気になって気になって仕方なし。
私は、歩く派だ。
こんな苦行より、景色を見ながら歩くのだ。