朝、いつものようにコーヒーを淹れたところで、
「今日、ちょっといい?」とサトルくん。
お、きたぞきたぞ、と思う。
そろそろかな、という気がしていた。
インタビューを受けたい、という申し出だ。
なんじゃ、そりゃ、と思うでしょう。
ヘンな夫婦だ、まったく。
「アベさんは、どうして写真を撮るようになったんですか?っていうところから、
始めようかな」
「うん、じゃあ、そっからいこうか」
実は今月、サトルくんは人前で喋ることになっている。
時間は30分くらい。(短い!)
10代後半から、彼は気象観測船の船乗りだった。
仕事を辞めて、シベリア鉄道の旅に出るのだけど、その時におじいちゃんからカメラを手渡された。
「それが、写真を撮り始めたきっかけですねえ」
これまでもインタビューを受けると、そのことを喋ってきた。
おじいちゃんのカメラ。
ここらへんの話は、流れるようにすーっと進む。
だって、何度も話している。私も何十回と聞いてきた。
でもさ、とここで私が口を挟む。
「そもそも、それまで本当にサトル君は写真を撮ってこなかったの?
家にカメラはなかったの?」
「なんで、おじいちゃんはカメラを持っていたの?おじいちゃんは、何を撮るため?」
「うつるんです、とか出てきたよね。そういうのも、使うことはなかったの?」
ひとつひとつ、掘り起こす感じだ。
「おじいちゃんは日本画家だったからさ、各地に行って風景を見る時に、写真も撮っていたんだよね」
と言われて、なるほど、と思う。
なんでおじいちゃんのカメラだったのかがわかった。
「今ってさ、携帯で何でも写真に撮るけれど、自分たちが子どもの頃って、
ほとんど写真を撮らなかったよね。どんな時にとったっけ?」
インタビューは、
扉をあけていく作業だ。
コーヒーを飲みながら、そんなふうに2時間くらい喋っていたら、
「なんだか、喋れそう」な気がしてきたらしい。
さて、どんな話になるでしょう。
場所は「パシフィコ横浜」のキャノンブース。
【カメラと写真映像の祭典 CP⁺2024】
2月22日~25日まで。
https://corporate.canon.jp/profile/communications/event/cpplus2024
阿部了は2月24日(土)14:30~15:00
「カメラとの出会いから妄想する写真へ」というテーマで喋ります。
https://corporate.canon.jp/profile/communications/event/cpplus2024?_ga=2.80923732.254955215.1708161337-258810122.1707098550
実は、娘の受験前にもこんな時間があった。
高校受験の前、大学受験の前。
私が夜、ベッドの中で本を読んでいると、
「ちょっといい?」と言って、娘が布団に潜り込んでくる。
「今から、よろしく」と言われて、ふたりで並んで体を起こす。
腰から下は、ふかふかの布団の中。
それをやる時は、つまり受験のシーズンは冬だったってことだ。
娘が、「将来の夢」とか「高校に入ったらやりたいこと」とか、
「学校生活で力を入れたこと」なんかを喋り出す。
つまり、面接の練習だ。
部活動が、とか、あの実習の経験が、とか、
ありきたりの話を聞いていても、あんまりおもしろくない。
だから、なんで? なんで? を繰り返しながら、
もっと具体的な、私が聞きたいような方向にもっていく。
でさ、なんでそう思ったの?
その時、どうだったの?
もっと聞かせて。
自分の言葉を探してみて。
娘は、毎晩いっぱい考えて、
自分の体の中から出てくるものを、必死で捕まえようとしていた。
母と娘のインタビューの時間だった。
セッションみたいな感じか。
あの時間が愛おしい。